『愛故に。』



あぁ恋人よ 泣かないでおくれ
この血に汚れた手を洗うよ
そしたら新しい人生を始めよう
オレはよくわかってるわけじゃない
善悪の区別もわからない
わかってるのは今夜君を愛しているってことだけ





真夜中
カーテン越しに誰かが立っているのが見えた。
誰かなんて訊かなくても分かる。
俺の一番大事な…

「どうしたんだ、フレッド。一人でトイレにも行けなくなったのか?」
眠い目をこすりながらカーテンを開ける。
そこには案の定こっちを見下げてるフレッドの顔があった。

「ジョージ…」
フレッドはそのまま倒れこむようにオレに抱き付いてきた。
「どうしたんだよ…って…お前何か濡れてないか…?」
フレッドを軽く抱きしめると、何かねっとりした物が手についた。よく見るとフレッドの顔や髪にも何かついている。
「フレッド…?」
カーテンが風にふわりと舞い月光が差し込む。




「ジョージ。オレ、お前が好きだ。誰にも負けないくらい愛してる。誰にも渡したくない。」




浮かび上がったのはフレッドの無邪気な笑顔。
イチバン好きなフレッドの笑顔だった。
…ただ、所々に染み付いている黒っぽいモノを除いては。




「僕だってお前が好きだよ。誰よりも。」




頬についている液体を軽く親指で拭いながら伝える。
…やっぱり血だ…。

「フレ…」
「アンジェリーナと付き合ってるんだろ?」

突然思いもよらない言葉がフレッドの口を割る。
「えっ…?」
「リーが云ってた。この前中庭でお前とアンジェリーナを見かけたって。」
突然の話の飛び具合に思考回路が上手く回らない。
中庭で?アンジェリーナと??

「その時の会話で“好き”とか“オッケー”とか聞こえたってさ。」
そこまで聞いて漸くその時のことを思い出す。
「あぁ、アレは…」
「だからか?最近アンジェリーナとよく一緒に居たのは。」
フレッドが嘲いながら云う。
「違っ…お前何か勘違い…」




「でも、いくらアンジェリーナにでもジョージは渡せないんだ。




だって、ジョージを一番愛してるのはオレなんだから。




オレが一番ジョージを解かってるし、オレが一番ジョージを幸せにしてやれる。」




「フレッド…」
「アンジェリーナは嫌いじゃなかった、寧ろ好きだったのにな。残念だ。」
そのままフレッドは箒を手に取り、俺に腕を伸ばす。
「行こう、ジョージ。」
「行こうって…何処に…。」
「お前と一緒なら何処にでもさ。もうココには居れないだろうから。」
フレッドはただ僕に手を差し出してきた。
ただただ手を差し出してきただけだった。
オレは…。




















「なぁ、どうせなら二本箒持ってきてくれれば良かったのに。」
フレッドの腰に手を巻きつけながら風の音に負けないように大きな声で云う。
「あ、そっか。そうすれば良かったのか。ジョージと箒と杖が有れば良いやと思って。」
「ほんとそういうとこ勢いだけでくるよな、お前。」
僕とフレッドは声を上げて笑った。










アンジェリーナがどうなったのか。



フレッドが何をしたのか。



でもそんなことはどうでも良かった。



オレもアンジェリーナは嫌いじゃない。寧ろ好きだった。残念だ。
でもフレッドが殺ってなければ、きっとオレがフレッドの立場だっただろう。
だって…。




















「ねぇ、ジョージ。私、フレッドのことが好きなの。協力してくれない?」
「協力?」
「そう、私とフレッドが上手く行くように。貴方もいつまでもフレッドと一緒って訳にはいかないでしょ?」
「……オーケィ…。」





「なぁ、ジョージ。ところでオレ達何処に行く?」
「お前何処に向かって飛んでたんだよ。」
「適当。」
「あのなぁ…。とりあえず寒いから南に向かって飛んでみようぜ。」
「それもそうだな。ま、オレはジョージとなら南極だろうが行ってみせるぜ☆」
「僕もフレッドと一緒なら何処へでも。…でも南極は寒いから勘弁な。」



オレ達は最高の笑顔で月明かりの下いつまでも笑っていた。





あぁ恋人よ 泣かないでおくれ
この血に汚れた手を洗うよ
そしたら新しい人生を始めよう
オレはよくわかってるわけじゃない
善悪の区別もわからない
わかっているのは今夜君を愛しているってことだけ
今夜…



end.

Good Charlotte“My Bloody Valentine”より。