『迷惑な話。』



「「完成だ!!!」」

誰も使ってない筈の教室のドアがバタンと開くと、出てきたのはホグワーツのご存じお騒がせコンビ、ウィーズリーズ。
その片方の手には鮮やかなピンク色をした液体をなみなみと満たした瓶が握られている。
「さぁ、初実験台には誰が良いと思う、ジョージ君。」
瓶を掲げてる方が愉しそうな顔で、同じ姿形をしたもう一人に問いかけると
「それは勿論我が愛しの弟君であるロニー坊やでしょ☆」
もう片方が同じ顔で答える。

「「さぁ、我らの愛しき姫君の所へ!!」」

声を揃えた(勿論示し合わせた訳ではない。)二人は、モルモットの待つであろうグリフィンドール談話室へと駆け足で走り出した。










「どうしたの、ロン?何だか顔色が悪いみたい。」
ハリーとチェスに興じてたロンが突然俯いたのを見て、ハーマイオニーが心配そうに声を掛ける。
盤上はロンの勝利を確信しているモノだから、チェスの見据える結果が原因ではないであろう。
「僕…なんだか……なんだか凄く厭な予感がするんだ……。」
ロンは微かに声を震わせながら答えた。
「何云ってるんだよ。君の勝利は確実じゃないか。厭な予感だなんて……。」
ハリーもどう見ても形勢逆転なんて無理であろう盤上から目を上げて、ロンの顔を覗き込む。
「違うんだ……チェスの事なんかじゃなくて……もっと…もっと厭な………」
ロンがそこまで云い掛けたときだった。



「「ロン!!」」



レディーの穴から出てきた嬉しそうな二つの同じ顔。
「……ロン、君の厭な予感って何だか当たってるような気がするよ……。」
「えぇ、私もそう思うわ。」
思わず溜息と共にこぼすしかなかった。



この二人と関わってろくな目にあったことはない。



ロンは二人に向かって先手を打った。
「いつもいつも僕の所じゃなく、たまにはパーシーの所へ行けば良いだろ!」
その言葉を聞いたフレッドとジョージは互いに顔を見合わせ
「何でロニー坊やはこんなに怒ってるんだい、ジョージ。」
「僕たち何かしたっけ、フレッド?」
「いや、まだ何もしてない筈だが?」
「そうだよな、まだ何もしてないよな?」
ニヤニヤとしながらゆっくりと近づいてくる二人。
「…まだって……まだって、やっぱり何かする気じゃないかー!!」
ロンは慌てて談話室の出入り口めがけて走っていく。それは当然双子の方へ向かって突進していく形となって。



「「「うわっ!!!」」」



三つの声が重なった。
全力で走って行ったロンが二人にぶつかったのだ。

「「ロン!!」」

ハリーとハーマイオニーが慌てて駆け寄っていく。
「あいてててっ……。」
ハリーはロンに手を伸ばし、仰向けに倒れたロンを起こしてあげる。ぶつかった拍子に腰を打ったみたいだった。
「フレッドとジョージ…も…だいじょ…う…ぶ……」
ハリーがロンを起こしてあげてる間、双子に向かって手を伸ばしたハーマイオニーは唖然とした。
ハーマイオニーの声が不自然なことに気づいたハリーとロンがそっちの方を向く。
「どうしたの、ハー…マイ…オ…ニー……」
ハリーもロンも絶句するしかなかった。
だってそこに倒れていたのは……。


「痛ってー。」


頭をさすりながら起き上がる赤毛の見慣れた顔と


「痛ってー。」


同じく頭をさすりながら起き上がる赤毛の見慣れない……いや、顔だけは見慣れた女の子だったから…。





その声を聞き、思い切り顔を女の方に向ける男の方。
「ジ…ジョージ……。」
相方の尋常じゃない声を聞いて、不思議そうに顔をしかめる女の子……もといジョージ。
「どうしたんだ…よフレッ…ド…?」
耳に届いたのが、普段発する声と違う高い声で有ることにようやく気付く。
あまりの驚きに咽喉元に手をやり
「あー…あー…。」
と声を出してみる。ジョージは、明らかに自分とは違う声が自分の咽喉を震わせてることに驚いた。



「いったい貴方達、何を作ったの…?」



ハーマイオニーがローブのポケットから手鏡を出してジョージに手渡した。
そこに映っていたのは、フレッドと同じ顔をしたサラサラロングストレートの赤毛をした女の子。
フレッドはジョージの傍らに落ちていた空っぽの瓶を取り上げた。
「ジョージ……、どうらや実験は成功したみたいだな…。」
「あぁ…、しかしまさか自分が最初の実験台になるとは、考えてもみなかったぜ…。」
ハーマイオニーから手渡された手鏡を覗き込みながら、サラサラに伸びた自分の髪をしきりに撫ぜる。





「しかし……」





「俺って」
「お前って」
「「美人だなぁー。」」





こんな時でもこの調子の双子である。
ハーマイオニーは思わず額に手を当てると、
「で?元に戻す薬はどこにあるの?」
と問いかけた。
その質問に二人は顔を見合わせると、



「「ない☆」」



と、一言。


「いや、図書館の奥の方で埃被ってた本の中に書かれてたんだよなー。」
「タイトルは“男と女の深い溝”」
「もちろん気になった俺たちは」
「連日徹夜で薬作りに没頭さ☆」
「で、今日ようやく完成に漕ぎ着けたんだなぁ♪」
自分たちの一大事だと云うのに、まるで武勇伝で有るかの如く話す二人。
「勿論その本に解毒薬の作り方も載ってた訳よね?」
ハーマイオニーにとっては当たり前の質問に

「それがめちゃめちゃ古い本でさー」
「この薬を作る部分を解読するのも一苦労だったんだよなー」
「で、解毒薬の作り方の部分は」

「「破れてたな。」」

あっさりと答える。
二人の言葉にハリー・ハーマイオニーのみならず、事の成り行きを傍観していた談話室のグリフィンドール生達も絶句。





「そ、そんな薬を僕に使おうとしてたのかーーー!!!」





談話室にはロンの怒りに震えた声だけが響きわたった。



end.